仕方なく、一人重い足取りで下足室へ行くと、
もうユウくんはいた。

「やっと来た。しらばっくれたのかと思った。」
「そ、そんなことしないよ。」
「ふふ。冗談だよ。でもよかった。」

と、心底嬉しそうな顔をする。
その顔、その笑顔、やめて。
なぜか色々思い出すから。

「…カコ、何か話してよ。気まずいじゃん。」
「え。えっと…」
「カコは、なんかないの、俺に聞きたいこととか。」
「うーん…」

ありすぎてわからないよ。
…いつから呼び捨てに?とか。

「じゃあ、カコのこと教えてよ。うーん…カコは」
「っその前に、下の名前呼び捨てやめて。変な誤解されるじゃない。」
「えー?どんな?」

そうしてまた無邪気に笑う。
やめてよ。…分かってるくせに。
でも、本当は。休み時間に来る女の子たちの気持ちが少しだけ分かる。
こんな風に笑いかけられたら…

「…分かるでしょ?」
「分かんない!あ、じゃあ、姫の方がいい?」
「もっとやだ!…もう、いいよ。」
「ふーん。変なの、姫。」
「それだけは勘弁して。」
「あはは。」
「もう!」

私は、足早に歩く。

「あー、ごめんごめん。待ってよ。怒ったら、可愛い顔が台無しだよ。」

そう言って、今度はほっぺをつまんできた。

「っ!からかわないで!」


そんなことをしていたら、いつの間にか家の近くになっていた。
…1人よりずいぶん早くてびっくりする。

「じゃあ、私ここだから。ありがとう、明日ね。」
「え?…この家なの?」
「嘘なんかつかないわよ。」
「…俺、隣。」

そう言って隣の大きなお家を指差す。

「…え?」
「ご近所どころか、家隣じゃん!わぁ、これって運命?」
「…あはは。」

笑えない。

「マジ嬉しいんだけど。明日から毎日一緒に通えるじゃん。」
「ば、ばいばい!」

申し訳ないけど、ユウくんの言葉を無視して、急いで玄関へ入る。

バタンっ。



「焦りすぎ。可愛い。」



…隣の席の大嫌いな君は、お家まで隣でした。