はぁ。
なんだか最近、慌ただしい。

原因は隣の席のこの人。
シノハラユウ。
彼が転校してきて一週間。


相変わらず身長は高いし。
相変わらず目立つし。
相変わらず女好きだし。

それに、最近は授業中の発言も多い。
…頭もいいのね。

また、正解して先生に褒められる。
そして、

いぇい

とドヤ顔でピースサインをしてくる。


無自覚なんだと思う。
隣の席だから、私に向かってアピールするだけだ。
角の席に座る彼には、隣は私しかいない。
でも、女の子ってこういうの見逃さないから。

「ねぇ、まだ付き合わないわけ?ユウのアピールに気づいてあげてよ。」

なんて、毎回同じことを言われるんだ。
気づいてないわけじゃないよ。
でも、面倒臭いことには関わりたくない。

「そうだよ。ユウとカコが早く付き合っちゃえば、毎時間のように来る女どもも黙るのに。あー焦れったい。」


ユウくんのことは、瞬く間に他クラス他学年に伝わり、
もう有名人みたいだ。
毎休み時間ごとに女の子たちがユウくんを呼び、悲しそうな顔をして帰っていく。
ユウくんも、
行きはいつものスマイル、帰りは面倒くさそうな顔を。


…自業自得だと思う。
期待させるような言葉を言うから。
女の子たちもかわいそうだし、
ユウくんだって嬉しがっているようには見えない。


って、なんで私はユウくんの心配をしているのだろう。
とにかく、彼のせいで私のペースが乱されているの。


「カコ!一緒に帰ろうよ。」
「わぁっ。…ユウくん。」
「家近いんだしさ、ね。」
「あ、あの、うん…。」
「オッケー、決まりな。下で待ってるから。」


実際にユウくんを目の前にすると、何も言えなくなる自分が嫌だ。

あ、ヒナたちが来た。
途中までくらい一緒に帰りたいな。
ずっとユウくんと二人きりなんて無理。

「じゃ、カコ、篠原くんとうまくやるのよ。」
「今日こそ、ね。」

肩をポンと叩かれる。

「え、…行っちゃうの。」

…行っちゃった。