「お待たせしてすいません」

「全くだと言いたいところだがさっきよりも綺麗になってるので許す。さぁ、乗れ」

車も規格外。リムジンのキャデラック。やつぱり、富豪はランクが違う。

「炯汰。出せ」

「はい」

あれ、知らない人がいる。運転手かと思ったけど服が執事が着るような燕尾服を纏っている。雰囲気はとても物腰の柔らかそうな人だ。

「炯汰は俺たちの執事だ。帰ったら、ちゃんと自己紹介させる。それよりも今はパーティーだ。俺の妻として紹介するのだから、立ち振舞いを気を付けろ。こういう世界はなにかつけ入る隙がないかと常に狙っているようなもんだからな」

ようはスキャンダルに飢えているってことか。嫌な世界。

「挨拶ぐらいはしろ。その後は俺がなんとかする。いいな」

「は、はい」

「それでいい」

頭をポンポンと撫でられた。ヘアアレンジが崩れないよう、気を使って。

「到着しました」

ガチャッとドアが開かれ、目の前には綾斗さんの腕。

「妻をエスコートするのも夫の役目だ」

優しいのか社交辞令なのかよく分からないけど腕を取り、自分のそれと絡める。歩幅を合わせてくれるところもやっぱり、優しいのかもしれない。

「会場に入る。精一杯、演技しろ」

演技って…。まぁ、外面を良くしておけば大丈夫だと思うけど。