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「ありがとう、紫子ちゃん」

紫子はコーヒーを菊二に手渡すと、自分の分である紅茶を飲んだ。

「ところで先輩」
「何かな、紫子ちゃん」

菊二は笑顔で紫子を見る。紫子は翡翠の瞳をすぅっと細め、形の良い唇から言葉を紡いだ。

「ソレ、何ですか」

紫子の言うソレとは、ソファーの隣に大量に積まれた竹のことだ。

「あぁ。裏山で伐採したやつだよ。主事さんに分けてもらったんだ。後で一緒に炊き込みご飯でも作ろう」
「わざわざやるんですか」
「勿論! 自然を感じようじゃないか!」
「……勝手にして下さい」

はぁ。とため息をはき、紫子は目の前に座る先輩ーー否、彼氏である菊二を見る。

茶色の髪にグリーンの瞳。いつもは煩いほどに元気な菊二だが、今は出されたコーヒーを黙って啜っている。
黄昏の光を受けてオレンジ色に輝く髪は、きらきらと蜂蜜のようだ。

(…黙ってれば綺麗な顔)

内心、紫子はしみじみと考える。
けれど。
それを知っているのは自分だけでいい。

ーー自分以外に知られてたまるか。

今、廊下にいるであろう『お客さま』に知られると思うとどうにも気分が悪い。
そう考えるがはやく、紫子は菊二を呼んだ。

「…先輩」
「何かな」
「やりましょうか、炊き込みご飯」
「本当かい!? やった! それならすぐにやろう!」
「えぇ。でもーー」

興奮している菊二を尻目に、紫子はちらりと部屋の扉を見た。

「ーーどうやらお客さまみたいですよ」

入ってどうぞ。

紫子がそう言うがはやく扉はガラガラと開いた。

「……助けて下さい」

助けて下さい。と、扉を開いた張本人である柊 凉和(ひいらぎ すずか)はそう頭を下げて懇願した。