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「はぁ、はぁっ」

夜の帳が落ちた夜道を走る。

何で、どうして私が。

自然と涙が溢れてきたが、それが走る辛さなのか恐怖なのかまともに判断がつかない。

「っきゃあ!」

すると転んでしまって、無様に転げ回る。
痛みに顔を歪め、立ち上がろうとするが足を挫いてしまって無理だった。

ひた。ひた。

足音が、近づいてくる。

「嫌、いやぁ!! 来ないでよ!」

がくがくと膝が笑って、張り上げた声は滑稽にも震えていた。

ひた。

音が
ーー止まった。

ひゅうっと息をのみ、恐る恐る後ろを振り返る。

「……ははっ」

月明かりに照らされた『ソレ』は、私に手を伸ばしていた。
つぅっと頬を涙が伝い、渇いた笑い声が響く。


「ーーばけもの」

呟いた言葉を聞いたのは、空で輝く満月だけだった。