僕の家は、吉祥寺駅と三鷹駅のちょうど真ん中辺りにある。だから、本当は吉祥寺駅を最寄り駅にしても差し支えはなかった。でも、なんでそうしなかったかと言えば、特別快速の次の電車に三鷹駅から乗る方が何となく空いている気がしたからだ。もっとも、彼女を見かけるようになってからは、彼女の事を見ていたい、そういう想いしかなかった気がするが・・・。
 「昨日はあっちに行ったんだよな。」
そう思いながら僕は振り返った。たぶん、あの声がなかったら、もう怖くてこの駅で下車する事もなかっただろう。もしかしたら、引っ越しも考えていたかもしれない。
 でも、今は違う。
 「あの声がある。」
 そう思うだけで、景色が全然違って見えた。
 人混みも住宅街も何もかもが違って見えた。と言うか、昨日の事が本当に現実の事かもわからなくなっている感じだった。
 そんな不思議な気分で歩いていると、新しいコンビニが出来ていた。住宅街に似つかわしくないくらいの明るさにこのコンビニも現実じゃないんじゃないか、そんな気さえした。でも、僕の鼻を強烈に刺激する新築の匂いが、これは現実だと教えてくれた。
 そんな匂いにハッと目が覚めた瞬間、僕を更にハッとさせるものが目に飛び込んできた。今度こそ夢だろう、そう思った。