家に着く。
「ただいま。」
…誰もいないことをわかっていても、毎日言ってしまうただいま。

今日も、ママはいない。


勉強、するか。
他大学に出て行くなら成績は上位であればあるほどいい。
うちは父親がいないし、
ママは最も楽に稼ぐ方法を覚えた最低の人間だから、塾なんかにお金はくれない。
それでも生活にはそれほど困ってないけど。
…女2人分が暮らしていくお金なんか、一晩ですぐ手に入るんだ。
汚い。

必要なものは和明に買わせる。
それか、モデルのバイトで稼いでた分があるけど、事務所の社長の意向でなるべく貯金しときなさいって。

だからね、参考書買ってもらうのは正直ありがたい。
でも、あの時はよく見てなかったけど、あまりにレベルが低い。
やっぱり売りつけよっと。

そうして、使い古した教科書を取り出す。


コホッコホッ

…あ。
薬、飲み忘れてた。

ゴホッ

…あった。もう、最後の2個。
そう言えば明後日は、薬の受取日だった。

水をコップに注ぐあいだにも、咳はどんどん不快な音になってく。


ゴクリ。

ふぅ。落ち着いてきた。



…もうちょっと頑張って、私の体。

今日という日に後悔しないように生きてきた私なのに、
なぜだかそんな風に願っていた。