手術が、明日に迫る。
「ママ、私ね、お父さんに会った。」
「…え。」
「大丈夫、もう会わない。さよならしてきた。モデルもやめたし。」
「そう。」
「きっとまだ、ママのことを愛してるよ。」
「…お互いに思ってても、上手くいく恋だけじゃないのよ。」
「そうか。…でも。私、あの人がそんなに悪い人には思えない。ママを捨てたなんて。」
「…。」
「ママと、お父さんの話。聞かせてよ。」
「どこまで、さくらに聞いたの?」
「美羽さんと同じ人を好きになって、駆け落ちして、1人になって私を産んだって。」
「…隆也、お父さんとは、高校3年のときに隣の席になって仲良くなった。美羽とは、似てるって言われてたけど、全然違ってね。大好きだったけど、すごく羨ましかった。…誰にでも愛されて。そこも、あんたと似てるよ。」
「…え?」
誰にでも愛されて…
確かに私は、みんなから愛をもらってた。知らないうちに。
「それで、女優やってても、卑屈な私は上手くいかなかった。それで、なおさら卑屈になって。
…でも、こんな私を愛してくれたのが隆也だった。いつも美羽と比べられてきた私に、初めて『真央だからいい』って言ってくれた。
…他には何もいらないと思った。
でも私たちは…認めてはもらえなかった。元々、芸能界に入った時点で親からは見放されていたし。
私たちも、あの頃は若かったのよね。それで駆け落ちした。」
「…」
「隆也に映画の主演のオファーが来たとき。
『でも、俺は主演なんていらない。それよりも真央が大切だから。お金はこれからも困ると思うけど…2人、いや3人で頑張ろう。』
そう、隆也は言ってくれた。妊娠も、気づいてたみたいね。
けれど。隆也がせっかく認められようとしているのに、そのチャンスを手放すことが私にはどうしても許せなかった。
むしろ、隆也が認められるのを見られれば私も幸せだなって思った。
そして、私がその邪魔になるなら、喜んで身を引こうと思った。
そして、何も言わずに隆也の元を去った。
…これで、私たちの物語はおしまい。
平野さんからは、だいぶ文句言われたわ。『美羽から隆也を奪っておいて、そんなにすぐ別れるなんて。ひどすぎるだろ。』ってね。矛盾してるわよね。平野さんは本当に美羽のことが大好きだったんだから。
…でも。美羽のお葬式の日に言われたわ。『美羽に言われて初めて気がついた。あなたも、かわいそうなんですね。』美羽は、私の気持ちを分かっていた。」

「…」

「…ごめん。手術の前にこんな話、長々と。」
「ううん。聞けてよかった。
私、頑張るよ。たくさんの人のために。」
「そうね。理央は、たくさんの人の思いを背負ってる。」
「うん。じゃあね。行ってくる。」
「…いってらっしゃい。」