外出許可が出たから、
5年間お世話になった事務所に来た。
モデルを引退するため。
この1年は、
体調が悪くてほぼやってなかったけど、ズルズル引っ張ってきた。
もうすっぱりとやめようと思う。
…ママが1人で守ってきた隆也さん、お父さんを、私も守りたい。

「最後に、もう一度出ない?」
こんなことになっても、私のことを考えてくれる社長。
「いいんですか?」
「急に誌面からいなくなってしまったあなたを心配する声が日に日に増えているのよ。むしろ、出て欲しいわ。」
「分かりました。」
私、自分が考えていたよりたくさんの人に愛をもらってるんだ。

手術の日取り上、明日が限界。
急ピッチで、色々進めてくれるみたいだ。

感謝の気持ちでいっぱいになりながら、まだ私の写真も飾ってある事務所の廊下を歩く。


正面に、背の高い男の人が歩いてきた。
隆也、さん…?

いやいや、あんな売れっ子がこの小さな事務所にいるわけない、見間違いよね。

帰ろう。
彼に背を向けると、


「…君。お母さんの名前は?」

…お父さん。

「…熊田、真央です。」

話しかけないで。
困るのは、お父さん。

「やっぱりそうか。…君は、お母さんに似て、とっても綺麗だ。」

大きな手で頭をなでてくれる。
でも不思議と、嫌じゃない。

まだ、ママを愛してくれているんですね。
だって知ってる。
お父さん…隆也さん、1度もスキャンダルがないことで有名だもんね。

…でも、だめだ。
名残惜しいけれど、…さようなら。

「これからも、頑張ってくださいね。」

私たちの分まで。
…お父さん。