先生が話してくれた話。
…信じられない。
あり得ない。

「嘘だよ。先生。」
「嘘じゃないわ。」
「今さら美談語らないでよ。だって、だって。ママの仕事は…!」
「それしか、あのときの真央にはなかったの。」
「夢だった女優で頑張れば…」
「芸能界にいたら隆也くんに迷惑がかかる。」
「あれだけ売れていたら、お金送ってもらうくらい出来たでしょう。」
「出来たでしょうね。でも、隆也くんがデビューするための障壁は全て、全てなくしたかった。全ての関係を断ち切って、全て無かったことにした。」
「でも…!」
「愛する人のために身を引いて、
愛する人の残した唯一の宝物のために身を削って働いている。…あなたにも、愛する人がいるなら分かるでしょう?」
「分かんない、分かんないよぉ。」

分かってしまう、…痛いくらい。

先生の腕の中にうずくまって泣いた。

「…それでも。あなたは、生きたいと言ってくれたわね。今の時代は幸い、手術方法があるわ。法律上、18歳になれば受けられる。」
「あと一週間…」
「真央は、それまでに手術代が出せるように、ずっと貯金しているよ。…正直足りそうにはないけど、あなたが助かるのは私の願いでもあり、平野さんの願いでもあるから。足りない分は、私たちが出す。」
「…嫌だよ。」
「理央ちゃん…」
「私、そんなので生きながらえたくない…」
「理央ちゃん!」
「…私が、1年くらい前までモデルとして稼いでた貯金がいくらかあるから、そこから出す。」
「貯金、してるの?」
事務所の社長に勧められて。
最初は嫌々だったけど。
「1500万くらいだけどね。」
CM契約、2本分。
「え?それ本当?」
「本当だよ。ママの反面教師で…
って違うんだった。反面、じゃないんだったね。」