理央さんは、とっても純粋だ。
すごく楽しそうに遊んでる。

公園に来て良かった。
突然だったから特に何も考えずに言ってしまったけど。

和明さん…だっけ?
男の僕でもびっくりするくらいかっこいい人だったけど、
あんなの…絶対に許さない。
理央さんは、
僕の太陽であり女神なんだから。

「公園で遊ぶって、こんなに楽しいんだね。」

…清らかで、美しい。
やっぱり、始業式の日に屋上で受けた第一印象は本当だった。
小春は、絶対に裏の顔があるなんて言ってたけど。

「ねぇね。次はバドミントンしようよ。私、バドミントンは強いよ!」
「はい!理央さん、サーブお願いしますね!」

ポンっと。
清々しい音を立てて、羽が舞い上がる。

僕も打ち返す。
なるべく打ちやすいところに、打ちやすい強さで。
そしてまた、綺麗な弧を描き返ってくる。
…すると理央さんは笑った。

この笑顔をずっと見ていたい。

「平野くん、上手いね!めっちゃ返しやすい!」
「理央さんが上手なんですよ。」
「バドミントン、やってたの?」
「…一応、中学生のとき県で1位になりました!」
「へぇ、すごい。」
「でも理央さんも、本当に上手いです。」
本当に、そこらへんの人より上手だと思う。
というか、センスがある。
「小学校5、6年とバドミントンクラブだったんだけどね。でも平野くんには敵わないな。」
なんて、ふふと笑う。


「…あー。落としちゃった。ごめん!」
「いえいえ。すごく、続きましたね!こんなに続いて、こんなに楽しいのは初めてかもしれないです。」
「えー?冗談はよしてよ。でも、楽しいね。」
「冗談じゃないです。試合のときは、相手に落とさせることを目的にするから…」
「うーん。なるほどね。」
「もう一度、やりますか?」
「うん!やる!次はラリー100回、目指そうよ!」
「…はい!」
「行くよー?」

100回?
…なんだか、理央さんとなら出来る気もしてきた。

ポンっ。
羽が舞い上がった瞬間…


理央さんは倒れた。
「っ…」
「理央さん!」


…僕は馬鹿だ。
楽しすぎて、調子に乗ってた。
理央さんが病気であるということ、すっかり忘れてた。
僕が守らなきゃいけないのに。
…僕しか頼ることができないのに。

周りの人も助けてくれて、
救急車を呼んでくれている。
そこへ、ちょうどよくタクシーが見えた。
「お、タクシーが来たな。あっちの方が早そうだ。坊や、あれに乗っていきな。おーい!」
そうだ。
あの日理央さんのポケットから取り出してしまった紙、まだ持ってる。
あれなら、病院名と連絡先も分かるかも。

そして、理央さんを二人掛かりでタクシーに乗せ、僕は助手席に座る。
紙を胸ポケットから出す。
「三雲大学病院へお願いします!」
こういう時こそ冷静にならないと。
すぐに支払えるよう、
お財布から五千円札を取り出す。
信号で車が止まる。
僕は、上着を脱いで理央さんにかけ、セーターも脱いで丸めて枕にする。
「動くよ。」
ぶっきらぼうな運転手さんが言う。
「はい!お願いします!」
そして、紙に書いてある連絡先に電話を入れる。

「もしもし!熊田理央さんの担当医の方いらっしゃいますか?」
『私がそうです。』
「理央さんが、倒れました!今タクシーでそちらに向かっています!」
『理央ちゃんが?分かりました。すぐ入れるので、裏口に回ってください。』
「分かりました!」

「すみません、裏口に行っていただけますか?」
「はいよ。もうすぐ着くよ。」
メーターを確認すると、2300円。
「これ。お釣りはいらないんで。」
「…はいよ。…着いたぞ。」
「ありがとうございました!」
「…がんばれ。助けてやれ。」
「はい!」

着くと、何人もの先生がスタンバイしていた。
理央さんが相当な病気であることを実感する。
僕がやってしまった事の重大さも。

「…早く運んで!」

あ。電話を受け取ってくれた先生。

「すみませんでした!」
「君が悪いわけでは…晃くん?」
「え?はい、平野晃です。」
「…私、その…あなたの亡くなったお母様の友人の園田さくらです。」
「そう、だったんですか。」
「お父様、平野さんとは同じ医者ということで、結構頻繁に会ってるの。それで、あなたの写真も見たことがあって。…ちょっと、中で待っててもらえるかしら。」
「はい。」

…。
理央さんは、大丈夫だろうか。
僕が、公園なんかに誘わなければ。
よく考えたら、理央さんが公園に行ったことがなかったのは、
きっと病気のせいだ。
なのに僕は…!

「平野くん!」
「先生!…理央さんは?」
「大丈夫よ。体が少しびっくりしただけ。」
「良かった…。」
「あなたよね。理央ちゃんが病気のこと、バレたって言ってたの。」
「はい。」
「じゃあ、あなたのお母様と同じ病気というのも…」
「知っています。」
「お父様も?」
「はい。」
「責任、感じているんでしょうね。美羽…あなたのお母さんと、理央ちゃんはよく似ているから。」
「…父も同じように言っていました。」
「やっぱりそうよね。真央…理央ちゃんのお母さんと美羽も似ていたから。性格はまるで違っていたんだけどね。2人とも女優さんで、それはそれは綺麗だった。」
「…」
「私は、そんな2人を見てるのが大好きだったの…って、ごめんなさい、こんな話。私、つい。」
「いえ。」

先生と、理央さんのお母さんと、僕の母さんが友達だった。

「今日は、帰ったほうがいいわ。
それから…理央ちゃんのこと、よろしくね。」
「はい!」

なんだか、理央さんと接点を持てた気がして嬉しかった。

…僕は、相当な馬鹿だ。