天使の恋と涙

そこへ、会いたくない人が現れた。
「…あれ。リオじゃん。」
「…和明。」
「なぁーに、してんの?学校、サボってるの?隣の子はだーれ?」
「うるさい。もう関係ないでしょ。ごめん、平野くん。行こう。」
「…待てよ。勉強サボって浮気?
冗談じゃない。」
「もう別れたじゃない。」
「俺は承諾してない。…俺と同じ大学入るために、勉強しろ。戻れ。学校に。」
あんただって、大学サボってるんじゃないの。
私に命令するなんて。
…信じられない。

「…やめろよ。理央さん、困ってるじゃないですか。」
突然、後ろにいた平野くんが
私の前に出て低い声で言う。
「…平野くん?」
「はぁ?お前、誰だよ。」
「理央さんの、彼氏です。」
「ぶざけんなっ!」
すると、和明が平野くんを殴った。
「キャッ!…何するのよ。」
私は、地面に倒れこんだ平野くんをかばう。
「…いいです。殴ってください。」
平野くんは、見たこともないような怜悧な視線を和明に向ける。
和明は、少し怯んだように見えた。

そこに、追い打ちをかける。
「…馬鹿にしないでもらっていいかな。ずっと思ってたんだけどさ、あんた私をどうしたいわけ?」
「あぁ?」
「あんたの大学みたいな低レベルなとこ、うちの高校のエスカレーター捨てて行くわけないじゃん。」

要するにあれでしょ。
大学まで自分を追いかけてきた、美人なモデルの彼女っていうのが欲しかったんでしょ?
自分が優位に立ちたいんでしょ?
むかつくから、
いつか考えた盛大な別れ方ってやつをしてやろう。
…そうだ。この前受けた模試の結果、持ってたんだった。


「ご覧の通りあんたの大学、眼中にないから。」
「…第8志望、A判定…」
「まだ受験自体するかもわからないけど。」
これで、プライドはズタズタ。
いい気味。

すると、急に情けない顔になって言った。
「…そっか。それはそれでいいよ。なぁ、ごめんって。大学とかどうでもいいから、やり直そうよ。」
…意外と粘着質。
怒って逃げちゃうと思ったのに。
ちょっとミスった。

「可愛くて馬鹿な子が俺のために頑張ったっていう話を作ろうと思ったんだけどさ、いいや、可愛くて俺より頭のいい彼女で。な、別れるとか言うなよ。」
…。
イライラを通り越して、呆れた。
そういうことは、言わないで欲しかった。
たとえ本当でも。

「…行こう、平野くん。本当に迷惑かけてごめん。」
「…物じゃねえよ。」
「平野くん?」
「理央さんは物じゃない。あなたの道具でもない。理央さんを、こんなに悲しい気持ちにさせる人は許さない。」

私は、〝物じゃない〟…
私を人間として見てくれた人は初めてな気がした。

平野くんが手を引っ張ってくれた。

あぁ。
私、迷惑かけてばっかじゃん。

ごめんね。ありがとう。

そう言おうとしたけど、


「理央さん。どこ行きますか?」

彼は私にそれを許さない雰囲気で言った。

「…あ。何も考えてなかった。」
「じゃあ、公園に行きませんか?」

まるで何もなかったように。
優しい顔だけど強い顔だ。

「こ、公園?…いいけど。」
「やった!」

何がそんなに嬉しいのか、
平野くんは、さっきとは全然違って急に笑顔になる。


公園かぁ…

私には、小さい頃にも大きくなってからも公園で遊んだ記憶がない。
病気だから走り回るなって言われてるのもあるけど、
…そんなところ、連れて行ってくれるような親じゃなかった。