廊下の長椅子に座っていると、父さんが話しかけてきた。
「…誰、なんだい?」
「…」
「お前の、大切な人?」
「うん…」
「…難しい病気だ。」
「…え?」
「後で、起きたら手帳を確認させてもらうけど、多分間違いないと思う。」
「…。」

学校では普通なのに…
隠しているんだ、〝みんなの天使〟だから。

「隣の部屋で眠っている。もうすぐ目を覚ますはずだ。」


ガチャ…

寝ている先輩は、
重い病気だなんて信じられないほど、安らかな顔だった。

あれ。ポケットに何か紙切れが入っている…
…ごめんなさい。
寝ているのをいいことに、そっとそれを取り出す。

処方箋。
…何これ。医者の息子の僕でさえ見たことのないような薬が並んでいる。


…どうやら、父さんの見解は当たりみたいだね。


「ん…」

先輩が起きてしまった。
僕は、慌ててその紙を背中に隠す。

「ここは…っ!平野くん。」
「…僕の父の病院です。」
先輩が、僕の頬にそっと手を伸ばしてくる。

「…私、死んでない…。」

「せ、んぱい…?」
「…」
「あ、あの。待っていてください。父を呼んでくるんで。」
「…」