恋するキオク




突然出た圭吾の声に、一瞬私と牧野さんの体がびくんと揺れる。

なんか、聞き返して大丈夫なのかどうかも不安で。

でも、圭吾はそんな私と牧野さんの様子には構わず言葉を続けた。



「好きな相手にそういう役をしてほしくないのは分かる。でも、練習に出る気はない」


「圭吾……」


「はぁ〜っ、そりゃそうだよね〜。なんでもかんでも米倉くんに頼っちゃうなんて。ホントごめん。ごめんね」



牧野さんがぺこぺこ頭を下げる。

すると圭吾は



「明日だけでいいならやる」



そう言って、そのまま返事も聞かずにスッと階段を下りていった。



「え!ちょっと、ほんとに!?」



牧野さんはホッとして良いのかを判断する間もないほどに驚いて。

私は反射的に、帰って行こうとする圭吾を追いかけた。



「圭吾、待って!」






階段を一段ずつ早足で駆け降りて、また見えなくなる圭吾の背中を追いかけて。



「ねぇ、待ってよ圭吾!」



明日はいいって、どういうことだろう。

だいたい、どうして……。



ううん、それより圭吾が振り返ってくれたら何を言おう。

呼び止めて、それでも言葉を返してくれなかったらどうしよう。



そんないろんな考えが、頭をよぎって。



「圭吾っ!」



でも…

ホントはなんでもよかったんだ。



とにかく今すぐに、
圭吾の近くへ行けたらそれで……




「圭吾、圭吾っ!…っうぁ」






…………


突然足が宙に浮いたと思ったら

次の瞬間

私は後ろから腰に回された腕に、ぐっと力強く引き寄せられた。




「圭…吾……」


「お前全然わかってない」


「えっ……」



踊場の途中から出てきて、更に下の階へ降りようとしていた私を片腕で捕まえる。

耳元で聞こえるいつもの溜め息と、肩のすぐ後ろで感じる圭吾の呼吸に、どうしようもないくらい心臓が高鳴って。

背中に伝わる体温には、勝手に顔まで熱くなった。