恋するキオク




それからイベントの前日まで、圭吾の姿を学校で見ることはなかった。

あの店に行けば会えたのかもしれないし、あの公園に行けば見かけることもできたのかもしれない。

でも私は、それをしなかった。





「じゃあ野崎さん、音入れてやってみるからこっち来て〜」


「音?」


「何言ってんの。野崎さんが米倉くんを紹介してくれたんでしょ!」


「あ…ピアノ」



私は牧野さんの手にある一枚のCDに目をやった。

圭吾が作ると約束していた、劇の最中に使うバックミュージック。

ちゃんと、作って来てくれてたんだ……。



「ここ数日学校来てくれないし、作り物を手伝いにくる様子もなかったけど。これだけ素敵な曲作ってくれてたんだから、文句も言えないわよね〜」


「そんなに…素敵なの?」


「それはもう!私曲だけで泣けそうだったんだから」



牧野さんがちょっと思い出すように空を見つめる。

圭吾のピアノ。

ちゃんと聞くのは久しぶり。


私も、早く聞きたい。



「あ、でもいつ持って来てくれたの?」


「ついさっきよぉ〜。すぐ帰っちゃったけど」


「ホント?じゃあまだ玄関のあたりに…」



思わず動いてしまった身体。

でも…



私は一歩出かかった足を元に戻した。



「早く聞いてみたいから、練習始めよ」


「わ、野崎さんから練習の合図がかかるなんて珍しっ」






それから牧野さんが機材にCDを入れると、始まりの部分から心をなだめるような優しい音楽が流れ出した。

そして



《運命には、変えられるものとそうでないものがある。

後に苦しむ現実を避けられないなら、過去に戻り出逢ったことから全てを変えられないのだろうか。

それとも、出逢ったことを後悔せず、キオクの中で想い続けることができるなら

人は幸福を感じ、永遠にそれを心に残すことを選んでいくのだろうか》




そんな語りが曲に乗ったのを聞いただけで、私は声が詰まった。