「オレ、そういうのいいです。オレの曲は、たくさんの人に聴かせるためのものでもないし、それを仕事にしたいとも思わないし。
聴かせたい相手が隣にいて、何かを伝える言葉みたいに、その時の気持ちを伝えられればそれで満足ですから」
「いや、でもそれは勿体ないだろ」
「その相手を見つけた今、こうしてる時間の方がオレには勿体なくて。…まだ聴かせたい曲もあるし」
野崎を見下ろして、その手を強く握りしめる。
「あ、でもちょっと!」
「じゃあ失礼します。今日はありがとうございました」
追いかけようとした支配人の肩を、笑顔の沢さんが引き止めて
客の間に道を作ったメンバーたちが、花道のようにオレたちを通してくれる。
そしてオレたちは、そのまま自転車をこぎ出し未来に走った。
「もう一曲だけ、今すぐ聴いてほしいんだけど。家大丈夫かな」
「…………」
暗い夜道。
返事をしない野崎。
危ないから後ろは振り返れないけど、理由はわかってた。
まだ引っ掛かってる、現実があること。
「店で少し話しよ。大事なこと、伝えたいから」
うなずく頭が、背中に当たって
じんわり胸に、何かが広がる。
ドキドキと、ソワソワと
いろんな感覚が混ざり合って
オレ…
どうしようもなく野崎が好きだ。

