恋するキオク




大きくなる鼓動の中で目を閉じる。



祖父ちゃん、せっかく治してもらったけどごめん。

そして母さんも。きっとオレのピアノを弾く感覚の中に、命を吹き込んでくれたと思う。

それなのに
全部無駄にしちゃうよな。



でも、オレ見つけたから。

何を犠牲にしたって、守る価値がある大切な存在。

その笑顔も、その涙も

すべてがオレの生きる証になる。




野崎、出逢えてよかったよ。





「…っ!」




高く暗闇に消える角材。

素早く振り下ろされる空気音が、微かに耳に残った。





バァーンっーー……!!










 「キミ、ピアノうまいな」



 「好きなだけだよ。いつも
 ピアノの方がボクの気持ち
 に応えてくれてるんだ」



 「ほぉー!将来は演奏家か?」



 「……ううん」





ただ、自分の存在に気付いてほしくて

こっちを振り向いてほしくて




昔から、誰にでも聴かせたいわけじゃなかった。

だから自作の曲にこだわってた時もあったし、人前で弾くこともほとんどなかったんだ。



きっとオレの作る曲は、いつも誰かに宛てた手紙のようなもので

伝えたい想いや気持ちが、言葉に出せないまま曲に溢れていったんだと思う。



それは時に両親で、自分自身で、省吾の時もあったのかもしれないし、見えなかった本当の両親だったかもしれない。

でもいつしかそれは、すべてがたった一人に宛てたものになって



その相手が曲を聴いてくれれば、オレは今生きることに満足できるんだと思った。




でも、曲が弾けなくても

想いを風に飛ばして遠くから見守ることはできるから…





「圭吾、お前頭悪すぎなんだよ」




…………