恋するキオク




オレンジ色だった陽が、やがて窓から消えると

あたりはさっきよりもずっと静かに思えた。

お互いの存在も肌で感じられるくらい、空気も張りつめてくる。




カラン……



「……省吾」




冷たい地面から這い上がり顔を上げると、省吾はさっき倒れた角材を一本握り、オレの方へと突き出していた。




「お前に一体どれくらいの覚悟がある。……オレの一番大事なものを奪ってく気なんだからな。それをお前は、何で償うんだよ」


「…………」




何かを選ぶなら、何かは捨てなければいけない。

だからって、省吾の想いに比べられるようなものなんて存在しなかった。



でも、ひとつを守るために犠牲にできるものがあるなら

オレにとっての愛に、かけられるものがあるなら…




伝えたかった想い。

見せたかった未来への願い。



オレは省吾の前に、両腕をそっと差し出した。




「……どういうつもりだよ」


「オレはこれからも野崎を見守っていくって決めたから、命までやるとは言えない。でも……それくらい、お前にとって大切だったものを奪うんだと思ってる」



オレにとってのすべてがそうだったように、省吾の支えもそこにあったんだと思う。

だから



野崎に笑顔が戻ることを約束してもらえるなら


ピアノは…
捨ててもいいんだ。




「それでオレの気持ちが修まるとは限らないけど?」


「……わかってる」


「ピアノが弾けないお前になんて、何の価値もなくなるな」


「それでも野崎の前に…、オレとお前の間にも、道ができるなら後悔なんてないよ」




そこに途切れることのない、繋がりができるなら。