恋するキオク




店を出る時に顔を合わせた沢さんが、もう何かを口にすることはなかった。

言葉にしなくても伝わるように、ただ目を見ただけでお互いの気持ちが通じ合って。



「行ってくる」


「あぁ…」



今日の終わりに、またこの場所に足を踏み入れた時に

オレは何を思ってるだろう。



そんなことを何気に想像しながら、オレは学校に向かう時と同じ道を辿りあの倉庫へと向かった。

これで、すべては決まるのかな。







秋の夕焼けが映える空には、一番星が輝き始めてる。

野崎はもう家を出ただろうか、ちゃんと会場に着けただろうか。

まだ時間的には余裕があったけど、浮かんでくることはやたらにありすぎて…



今からオレと省吾の間に起こること、それがどんなことだったとしても

オレの気持ちはもう変わらないだろうし、やるべきことも変わらないと思う。

オレはこれからも野崎を想い、今日はそれを音で伝えたいんだ。



言葉で伝えてきた何よりも、曲に込めることでオレの想いは完成されるから。

それを聴かせないと、何も始まらないんだよ。





「圭吾」


「……省吾」



逆光が覆う視界の端からは、シルエットで浮かんだ省吾が近づいてきていた。



オレと省吾が歩いた軌跡とこれからの未来に見える運命は、二人全然違うもので、どちらが勝ってたとも劣るとも言えない。

でもその価値は
同じだったと思いたい。



頼っていた幼い頃のことも、憎しみあってきた今日までのことも

忘れないままに、消さないままに

互いの存在を、誇れるように。