―――省吾side―――
受験とは言っても、音楽以外の進路なんて考えてなかったから
オレにとっては、指先の神経を元に戻さないといけないというのが、最優先の目標だった。
「省吾、今日の補習出る?」
「あぁ、2教科は選択してるから。でもその前にちょっと行ってくる」
「おー、いつものとこだろ」
部活を引退してからは、陽奈に会える時間も少なくなって
ただ問題集と辞書を広げるだけの毎日に、飽きるような疲れるような、そんな感じで一日が流れていく。
渡り廊下で繋がった校舎に足を運べば、癒される笑顔を見ることはできるけど
その表情も、最近はなんとなく義務的に思えてきていた。
「陽奈」
「省吾…、今から補習?」
「うん、身体は大丈夫か?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
不安だった。
余計な考えが、何度もよぎって。
離れてる時間が、信じられないくらいに長く感じて。
「陽奈…」
「なに?」
「……いや、なんでもないよ」
消そうとしても、どうしようもなく浮かんでしまうこと。
「じゃあオレ行くから。ちゃんと体調管理には気をつけろよ」
「うん」
陽奈がオレの近くにいるのは、きっとオレを好きだからじゃない。
そんな頃の気持ちなんて、もう忘れてしまってるんだろうし。
ただ今は、
ここにしか居場所がないから…
「野崎さんっ」
「えっ……、陽奈!」
そんな時に起こった、
あの日の出来事。

