それでもその日は練習そっちのけで、私と春乃は米倉くんのことで話を盛り上げてた。
覚えてなくても、ずっと何かを感じてたこと。
頭の中だけじゃなくて、身体全体で惹かれていくような…
その日の帰りに、まさかもう一度会えるなんて思ってもみなかったけど。
「こんにちわ〜。すみません、やっとお小遣いたまったから、この間の修理代を払いに」
「おぉ陽奈ちゃん。いらっしゃい」
相変わらずお店のおじさんの笑顔は、私を癒してくれる。
「遅くなっちゃいました」
「いいよ、いいよ。楽器の調子はどうだい?」
「はい、大丈夫です」
そんな会話の中に、微かに聞こえてくるピアノの音。
私はまた、ゆっくりと天井を見上げた。
「二階…、この前も聞こえたけど、ピアノ教室とかやってるんですか?」
「いや、そうじゃないけど。……うん、ちょっと待ってて」
「あ、はい……」
おじさんが二階へと上がって。
そこから下りてくる人影に、一気に視線が集中する。
大きな津波のように押し寄せてくる、止められないほどのドキドキの波。
「米倉くん!」
春乃と放課後に盛り上がった時の興奮がよみがえって、たぶん私は、また不自然なはしゃぎ様になってた。
おじさんの話だと、米倉くんはいつもここにいるんだって。
それからたくさんやって来た米倉くんの友達。
仲が良くて、強い絆で繋がってるみたいで。
なんだかすごく、うらやましくて。
「野崎…?」
みんなはきっと、たくさんの米倉くんを知ってるんだ。
私も知ってたはずなのに、全部忘れちゃってる。
「そんなの、今からいくらでも知れるだろ。変なことで落ち込むなよ」
でも、ちょっと無愛想にそう言ってくれた米倉くんに、私はまた自然と惹かれて。
「ありがとう、米倉くん……」
もっと、一緒にいたい。
もっと、近くにいたい。
すごくすごく、そう思ったんだ。

