恋するキオク




日本を離れて、すべてを忘れて。

音楽だけに身を染めれば、奏でる指はすぐに戻ると思ってた。

音楽家を目指したいからとか、そんな気持ちはひとつもなくて

ただピアノだけは、オレのすべてだったから。




野崎がいるなら強くなれる。

それでも結局オレは、いつもどこかで弱さが出て、迷うたびにこうして野崎の近くで心を落ち着けてた。

不安になったり、苦しくなったり。

そんな時やっぱり、守ってもらってるのは全然オレの方で。



今も、野崎を求めてしまうことに変わりはない。




「…米倉くん」


「っ、悪い。別に変な意味じゃないから。それと、今なんか調子悪くて……ピアノは聞かせてやれない」



最初に作っていたあの曲は、実はオレそのものだった。

周りは壁ばかりで、与えられた運命から逃れる方法も分からなくて。


物語の先で、結局願うという方法で今を諦めたカイと同じ。

見える現実から目を背けて、弱さだけが浮き彫りにされてた。



だから途中で曲を変更した。

イベントでやるなら、もっと明るい未来を夢見た最後がいいからって

曲に込めた想いも、変えてしまったんだ。



言えばあれは、誰にも聞かせるつもりなどなかった曲。

隠し続けていた、オレの姿。




「…いいよ、待ってるから」


「えっ…」



野崎は以前と変わらない表情で微笑む。



「私ね、米倉くんのピアノがすごく好きなんだ。今CDを聞いたせいなのか、それとも前からなのかはわからないけど。もっと…聞きたい。
だから、たぶんいつまでも待てると思うよ。待てと言うなら、たとえばそれが永遠でも」


「野崎……」




それはまるで、ユリアの残した一節にも似ていた。

すべてを失っても、記憶の中で永遠にカイを想い続けると…

そう残した、最後のように。




「うん…、ありがとう。またいつか聞かせるから」




なぁ、オレたちもやっぱり

ここで離れた方がいいのか。