鼻をかすめる微かな香り。

近づく眩しい茶色の髪に、私は少しだけ目を細めた。



「あのさ、たぶん省吾のことだからオレとは関わるなとか言われてるはずなんだけど」


「えっ……、知っ…てるの?」




やっぱり圭吾は、あの日の私の存在に気付いてた。

私が省吾と付き合ってることも、ちゃんとわかってたんだよね。



すぐ近くで見つめられる視線に、どうしようもなく激しく鼓動を揺らされながら

私はまた何も言えなくなって、圭吾の話を黙って聞き続けた。



「いちいち面倒だからやめてくれないかな、追っかけるの。省吾の女だからってオレにまで付きまとわれても困るし。
それにオレはアイツらと仲良くなりたいとか別に思ってないから。余計なこと考えるなよ」


「うん……ごめん、なさい」


「疲れる」



そう言ってまた送られてきた圭吾の冷たい視線に、なんだかちょっと辛くて足が震えた。



やがて肩に触れていた圭吾の手が私から離れると、掃除の時間の終わりを知らせるチャイムが鳴る。



「オレと関わろうとする奴なんていないからさ、浮いてるんだよお前」




去っていく圭吾。

閉まる扉の音は、やけに大きく感じて。

耳の奥で感じる痛みは、私の胸を一層苦しくさせた。



圭吾がみんなの輪の中に入れたらいい、そんな風に思う私の考えが、誰の態度よりも一番おかしかったみたい。



嫌われたかな……



澄んだ空の下で、私の胸に重い雲がのしかかった。