想い合い、繋がり合い、同じ世界を感じ合う。
しかしそれは、当然許されるわけでもない関係。
自分には家族が存在し、相手はまだ二十歳をこえたばかりの学生だった。
彼女を守るつもりが、逆にその行動が妻の気持ちを逆なでする。
距離を置いた辛い期間と、妻やその友人からの仕打ちで彼女に与えてしまった精神的な苦痛。
そして追い討ちをかけるように起こった、妻の自殺。
彼女の心は、やがて自責の念で押しつぶされた。
「キミのせいじゃないんだ!私が至らなかったんだよ、私の力不足で」
「違うっ…、全部私が…私がいたから……、っぅ…!」
「おい、大丈夫か!」
妊娠していた。
自分に孫というものが生まれたばかりの頃だった。
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「香織は元々、身体が丈夫な方ではなくてね。それから体調も崩して、精神面も安定しなかった」
ピアノの蓋が閉じられると、トン…と低い音が小さく響いた。
「お前は私と香織の息子だ。…でも香織にお前を生んだ記憶は残っていない。すべて忘れてしまっているんだよ。もちろん、私との記憶も」
「……っ」
時が止まったように、空気の振動が消える。
オレが…祖父ちゃんとあの人の息子。
そしてあの人にも
記憶がない…?
オレを省吾の父親…つまりオレの腹違いの兄に預け、自分は一年遅れで院に進んだ相澤さんを見守るために、国内にとどまり大学講師となった。
欠けた記憶を戻すことのない相手を、他の生徒と変わらず一人の教え子として指導する。
記憶を失う前に渡した曲の楽譜を、いつも大切そうに抱えていた想う相手を
ただ自分の存在を明かさずに
見守り続けた。
「どうしてこうも同じ道を歩もうとするのか…。お前は音楽にだけ、その目を向けていればいいものを」
「…それは、後悔してるってことか」
「後悔?」
「あぁ、あの人と出逢ったことを…、母さんとの日々を後悔してるってことか」
強く視線を送るオレに、祖父ちゃんはフッと笑みを浮かべる。
「そんなこと、お前にだってわかるんじゃないのか?」

