恋するキオク




まだ窓から差し込む太陽の位置は高かった。

逆光に目を細め、ただ黒く見えるシルエットに視線を合わせる。



オレが部屋に入っても、聞き慣れたその曲はずっと空間を流れ続け

やがてオレは、その部屋に自分とその曲を奏でる本人しかいないことに気づく。




「…なん、で」



心に響く曲は、当然ステレオから聞こえるものなんかじゃなくて

以前からこの場所にあった、まるでインテリアのように置かれたグランドピアノから響いてた。


もちろんそこにいるその人に、
深く奏でられて…




「……なんで祖父ちゃんがそれを弾いてんだよ…、っなんでその曲を弾けるんだよ!」



オレの言葉なんかに止められることなく、曲は最終章へと流れていく。

同時にオレの心臓は、強く握られる拳と一緒にどんどん早さを増していった。



胸を詰まらせ感情を高ぶらせるその演奏は、あの何度も繰り返し聞いてきたCDのように、高音で優しく弦を弾き、低音で静かに空気を震わせ

指送りの癖も、全く同じ。




あれは、
祖父ちゃんのCDなのか?

ピアノを始めたばかりの幼い頃、確かにあれをオレに手渡したのは祖父ちゃんだった。

両親が違うという話を聞いてショックを受け、家族の中で浮き立ってしまっていたオレに

オレの父親が残してくれたものだからって…、いつも近くで見守ってくれてるはずだからって…



「…っ、なんなんだよ…」



目を伏せ足下を眺めれば、沈む絨毯が滲んでいく。

何が悔しいのかもわからないけど、生で聞くその曲のせいと、入り乱れた気持ちのせいで

もう、訳が分かんなくなってて…



「なんでなんだよっ!」



呼吸が苦しくなって、胸が何かの思いでいっぱいになる。




やがて曲が止まると、祖父ちゃんは埃の光る窓辺でオレを振り返った。



「……圭吾、お前は哀れな男だ」