恋するキオク




牧野さんはしっかり者のクラス委員。

でも近寄りがたい雰囲気なんて全然なくて、なんとなくクラスの一人一人を見守ってくれてるような優しさがある。



「きっとまた、嫌な思いをさせちゃうんじゃないかって思ってた。すべてを思い出すことで、今の時間が壊れるのは良くないんじゃないかって……。でも、野崎さんがそれでもいいって言うなら」


「……?」



牧野さんから渡された一枚のCD。

私はその日の放課後に、それを持って音楽室に向かった。






大会が終わって、
三年生も引退して。

各部屋でのパート練習が多くなった吹奏楽部の活動は、どこか気の抜けた雰囲気を感じる。


教室の窓から抜けていく音階も、なんとなく途切れ途切れ。

合奏の時間も作らないから、音楽室にも人の気配はない。



「恋の記憶/クラス発表用か…。きっと劇に使った曲だよね」



牧野さんが手渡してくれたCDを大きな機材に差し込んで、私は小さめのボリュームに耳を傾けた。

いいことだけを思い出すなんてあり得ない。どちらかと言えば、辛い思いの方が人はそれを心に残す。



牧野さんは言ってた。

すべてを受け止められると思うなら、最初から始めてもいいんじゃないかって。

私の失った記憶は、生まれ変わりを願った二人と同じで

きっと、与えられた道に負けない想いに気づくためのもの。




失ったなら、
もう一度始めればいい。

もう一度出逢えばいい。



そして今度は、
離れることのない絆で…

強く結ばれればいい。



巡り逢いの曲

心弾かれる曲

切なさと悲しみを含んだ曲も

スピーカーから流れてきた曲は、どれもが私の耳を深く刺激して心までを包んでいった。



不確かな人影が揺らめいて、恋した記憶だけが波のように押し寄せて。

そして私も、いつの間にか願うことに夢中になる。




「……曲/米倉圭吾…」



米倉…圭吾……



あの空いた席の人。

省吾の弟。



それで……