恋するキオク




怖い気持ちもあった。

すべてを思い出す中に、辛い現実もあるんじゃないかって。

だからこのままでいられるなら、淡く浮かぶようなこの想いを消して

過去を忘れた新しい生活をした方が、誰も傷つかないんじゃないかって。



でもそれに抵抗して、隠れた感情は表に出ようと溢れてくる。

止めようとしても、気づかない振りをしようとしても

もう一度感じたい温もりが、どんどん呼吸を苦しくさせて。



聞きたい言葉がたくさんあった。

見つめていたい仕草が、何度も胸を高鳴らせた。



ずっと、逢いたくて…




「これ、返すのはいつでもいいから。素直な気持ちで読んでほしい」



手渡された『恋の記憶』

私の消えた記憶も、誰かを強く求めていた恋の軌跡。



「あの……」



ポーーン―――…


その時聞こえたピアノの音に、私とおじさんの視線が上を向く。



「誰か…いるんですか」



私が問いかけると、ただ微笑みながらおじさんは応えた。



「人は、何度だって出逢えるから」








おじさんにお礼を言って店を出る。

見上げる窓は
デジャヴュのような景色。


手に持った分厚い本とフルートには、気持ちの分だけ重さを感じた。



「またいつでもおいで」



そんな言葉も、聞き慣れたフレーズのように耳に優しい。



「はい、ありがとうございました」









「馴染みの客でも来てた?」


「そうだな、ずいぶんと馴染みの相手だ。……家に戻るのか?」


「うん、ちょっとだけ。オレ明日学校行くから」


「そうか。きっとそれがいい」


「祖父ちゃんと話する。それで……日本を離れて暮らそうと思うんだ」


「……」




運命とは、神様が決めるものなのだろうか。


それならどうか

それに勝る奇跡を……



信じる力で。