恋するキオク




おじさんは私を店の奥に誘い入れた。

入れてくれるコーヒーが、胸にじんわりと何かを残す。



「たいしたもの出せないけど、楽にしてくれていいから。……本当は聞かせたい曲もあったんだけど、今は調子が悪くて」


「はい…」



古いレコード盤を眺めるわけでもなく、おじさんはそう言ってまた天井を見上げた。




ここにいてもそう…

教室でも、公園を抜ける通り道でも、私の中にはどこか思い出を拾い集めるような不思議な気持ちが溢れてくる。

きっとそこら中に、今はない大切な時間が広がってたんだろう。

それを想うと、胸にぎゅっと詰まる感覚がよみがえるのに、それはなぜか切なくて苦しくて。


また…、何かを探すような

追いかけてるような……



だめだめ、
変なこと考えるのはやめよう。



私が首を振って顔を上げると、おじさんは言った。



「陽奈ちゃんは……、運命は変えられないものだと思うかい」


「……?」





出逢えたことも、離れなければならなかったことも

すべてを運命として受け入れながら、それでももう一度共に歩める日を夢見る。


いまは変えられなくても、生まれ変わった後になら、きっと出逢いの最初から始められるだろう。

そんな気持ちを抱きながら、風に消えた二人の話。



「知らないかい?」


「詳しくは…。でも私が劇で演じたってことは聞いてます」



どうして急にそんな話をされたのかわからないけど、おじさんの一生懸命さに心が揺れた。

私に今起こってること、それもまた運命だからと、わずかなことさえ考えることをやめていた。

でもそれは結局、逃げてることには違いない。



もし…

何を恐れることもなく、真実を受け止めることができるなら…



「一度最後までちゃんと読んでみないか?ただ諦めることだけを考えたわけじゃない。悲しいだけの最後じゃない。…そんな二人の物語を」



おじさんはそう言うと、静かに立ち上がり二階への階段を上っていった。