「圭吾くん…」
オレは沢サンの呼びかけにも応えないまま、店に帰るなりすぐ二階への階段を上がった。
頭の中には、頭を下げた省吾の姿がずっと残ってる。
オレに…どうしろって言うんだよ。
鍵盤に指先をはわせ、無心を誘うようにたくさんの曲を弾いた。
肩に違和感を感じない奏は全身に心地よく、その分感情にも敏感に反応する。
本当に野崎が必要なのはオレなのか、それとも省吾なのか…
そんなことにも迷い始めて。
気づけばオレは、またあの苦手だった曲に入り込んでいた。
今まで苦痛だった曲の中盤を、自由に弾きこなせることにも満足を感じていたのかもしれない。
でもそれよりも、今の自分の感情がその曲『K』と同調するような感覚に陥って。
何を想って作ったのか。
淡い感情を抱かせる。
それでも迷いを感じさせる。
強い曲調の中盤で焦りと決断を思わせ、その後の柔らかい曲調は…
どんな結末を表してるんだろう。
この曲を弾くと、いつからか野崎への想いが重なるようになった。
オレたちの軌跡と似てるんだ。
この曲にある、物語が。
「病院行ってくる」
「え、こんな時間にか?」
「すぐ帰るから店開けといて。…世話かけるけど、ごめんな。沢さん」
「いや…、構わないけど」
無邪気な星空。
運命を見守るようで、どことなく切なさを漂わせる。
わからなくなってた。
自分の進む先。
指し示される方向と、自分が望むこれからとの相違。
誰も教えてくれなくても、ずっと一人で彷徨ってきた。
そして自分だけの結論で、解決してきた。
でも今はきっと、オレだけのことでは済まされないから。
オレにできることは何?
やっぱり野崎に会ってみないと、前が見えないままだ。

