―――圭吾side―――



自分の気持ちなんて、ずっと音の中にしか表現できなかった。

口に出したって、まともに受け止めてもらえることもなかったし。

むしろ出さない方が、自分が傷付かなくて済んだから。



省吾のものは、望んだって省吾のものでしかない。

それが当たり前として、幼い頃からオレの心にはしっかりと刻まれていた。

だからあんなこと言われて、かなり動揺して。



「だって私、圭吾が好きだもん」



どうすればいいのか、一瞬わからなくなった。

我慢しか、
したことがなかったから。

抑えることしか、
知らなかったから。



「…そんなこと、言うなよ」



キスをしながらも、本当は迷ってた。

こんなことになって、この先どうなるんだろう。

何を、間違えてしまったんだろうって。



だって省吾がおかしくなったら
また親は…



「圭吾がそんなことするから」

「圭吾が我慢しないから」



オレも責められるけど、親も省吾の行動で悲しむことになる。

省吾が何か起こすたびに、悩んで、落ち込んで。

本当の親子だとか、違うとか。
そんなことは関係ない。

オレは今の親を自分の親として慕ってるし、育ててもらったのも確かだから。



守ってやろうって思ってた。

省吾のことで困らないように、オレが上手く行動していこうって…



でもどこかで、オレはオレ自身を守ることに必死だったのかもしれない。

たとえ正面から認めてもらえることがなくても、オレの居場所はあそこにしかなかったから。

形だけでも、
存在意義が欲しかったから。



今の親が、表面上はオレを省吾と同様に大事にしてくれるのは、オレの実際の親に気を使ってのことだということはわかってた。

でもいつか、オレだけを見てくれる瞬間があるかもしれない。

オレに心から、笑ってくれる時がくるかもしれない。

そう思い続けて…



結局、弱かったんだ。

独りだということを、あきらかにされてしまうことが怖かった。



ただ、心から信じられる相手がいたら。

信じてくれる存在がいたら。

いつまでもあの場所に、すがる必要もなくなるかなって。