奥にある小さな部屋には、いろんな機材がいくつも置いてあって。
それは曲を聴くためのものなのか、それとも楽器を直すための道具なのか。
私は本当に音楽をやってる人間なのかと、自分を疑いたくなるくらい何も分からなかった。
「そこに座ってて」
沢さんはコポコポと優しい音を立てながら、私にコーヒーを入れてくれる。
空間にちょっとだけ樹の香りが混ざって、なんだか古い喫茶店に来たみたいな雰囲気。
あ、古いは失礼かな。
「それで?圭吾くんとは同じクラスってことかな」
「あ、はい。それだけです!」
変に強調してしまった。
でもそんな私を見ながら、沢さんは相変わらずニコニコしてる。
「はは、そっか。でもね、こんなことオレが言うのもなんだけど、きみが圭吾くんの近くにいてくれて良かったと思ってるんだ」
「……良かった?」
ドクン、ドクン…
別に圭吾に言われたわけじゃないのに、そんなことを言われたら緊張してきた。
なんか…
初めて認めてもらったみたいな。
そういうんじゃ、ないんだろうけど。
「圭吾くんはずっとひとりだったから。あ、そういう一人じゃなくて“独り”ね。孤独だったってこと」
「独りですか…」
沢さんは一口だけコーヒーを飲む。
そして語ってもらう、圭吾の小さな記憶の物語。
***
「すみません。ここにピアノはありますか」
「あるけど…。きみどこの子?」
「ぼくピアノ持ってないから…、ここで弾かせてほしいんです」
突然現れた小柄な少年。
でもその実力は、店主を驚かせた。
「うまいなぁ…。習ってるのか?」
「お父さんが残したCDがあるので。何回も聞いて覚えました」
「え!お父さん作曲家!?」
「違うと思います。でもこれは僕にくれた曲だから」
今から10年近く前のこと。
それから少年は、たびたびこの店に通うことになる。

