恋するキオク





「うん、たしかにこれはちょっと直すまでに時間がかかるね。地区大会はいつ?」


「来月ですけど…べつにいいです」



夕暮れに照らされる音楽店。

間に合わなくたっていい。

私がそんな態度で壊れた楽器を眺めてると、沢さんは不思議そうに伝票を取り出した。



「じゃあここに名前書いてくれる?」



壊れてしまったことにはショックだったし、早く直って欲しいとは思ってた。

でも楽器が戻ってきたって、あの空気の中ではとても楽しくなんて演奏できないし。

部活をやめたいとまでは思わなかったけど、今は行きたくない気持ちの方が大きかったから。



「早くて2週間ってとこかな。なるべく急ぐから」


「はい、お願いします」



ふと天井を見上げる。

…聞こえて来ないな。
圭吾のピアノ。



「今日は来てないよ」



私がぼーっとしてると、沢さんはそう言いながら伝票の控えを差し出してきた。

思わずドキッとして、動揺してしまう。



「あっ、今日学校休んでたので。ちょっと…気になっただけです」



変なの。
なんだか後ろめたい。



私が控えを慌てて鞄に仕舞うと、沢さんは「そう」とだけ言って微笑んでた。

以前のこともあるし、もしかして私たちのこと、なにか疑われたかな。



でもきっと、沢さんなら圭吾のことをいろいろ知ってるんだと思う。

省吾との関係だって、今までのことだって。

あの噂のことだって…



いろいろ気になるのは、当然今も変わってない。

ううん、あの時よりずっと知りたいんだ。


私は視線をあちこちさせながら、少し遠慮する仕草で沢さんに言ってみた。



「あの…、私が圭吾のこと聞いたら…変ですか」




圭吾のいない日は静かなお店。

沢さんはまた微笑みながら



「いいんじゃない?」



そう言って私をお店の奥に誘ってくれた。