恋するキオク




結城先輩は省吾の横を通り過ぎて、何も言わずに準備室を出て行った。

本当は、今は省吾と二人きりになることも怖い。



「楽器、壊れちゃったね…。かわいそうな陽奈。味方がオレしかいないなんて」



そう言いながら、省吾の長い腕が私を包む。



省吾…何があったの?

どうして私は、こうなってるの?

唇を噛み締めながら、私は省吾を見上げる。



「うーん、その目はオレを怒ってる?でもそれはちょっと勘違いだな。オレはこんなこと誰にも命令してないし」


「…そんなこと、思ってないよ。でも、イベントの時何があったの?」



私がそう聞くと、省吾は私の持っていたケースを開いて楽器の状態を確認して。

外れていたキーを指で押しながら、細部までをじっくり調べていった。



「あの店に持って行くといいよ。すぐには直りそうにないから、地区大会はどうだろ。間に合わないかもね」


「ねぇ省吾、聞いてる?」


「別に何もないよ。…あえて言うなら、ちょっと泣いてみたことかな」


「な、く…?」



省吾は顔を上げた。







―――省吾side―――



オレにとっては、圭吾と兄弟であることを隠したところで、別に得なんて何もなかった。

同時に損もない。

どうせ関わることも少ないし、今さら比べられた所で、オレの築いた立場が崩されることもないと思ってた。



「省吾、お前……」


「あ、始まるみたいだよ」



何かを心配するように隣から声をかけてくる理事長。

でもあの舞台には、正直やられたな。

生徒たちの大半を引き込んで、圭吾の存在は大きく印象づけられる。

震えが走った。

みんなの視線を、オレに戻さなければと思った。


そして陽奈の気持ちだって、オレの方へ…





「結城、表彰の補助ついてくれる?」


「省吾、昨日何があったの」


「……なんのこと?」



結城があの場面で生徒会室に入ってきたのには驚いたけど。

でもそんなことは、それほど問題じゃなかった。



「あぁ、あれ?なんかよくわからないけど陽奈が詫びに来てただけ。オレに申し訳ない気持ちがいろいろあったみたいでね」



この言葉だけで、お前はどんな噂を広めてくれた?