恋するキオク




薄く開いた扉のすきま。

長い髪を下ろした姿は、同じ吹奏楽部で活動してる結城先輩のものだった。

サックスを担当している結城先輩は、省吾と一緒に生徒会の書記としても活動している。



「野崎さん…。どうしてここにいるの?」


「あ、あの…」


「気持ちは分かったから、もう行っていいよ陽奈」



慌てて答えようとした私を見ないまま、省吾はそう言ってイベントの資料を整え始めた。

それを手伝おうと手を出しながら、結城先輩は私の様子をじっと眺めて。



私と省吾の間にあった出来事を、頭の中で想像するように

私から省吾へと、ゆっくり視線を動かして行く。



「結城、まだ集まってない分は?」


「え?あぁ、もうすぐ副会長が持ってきますよ」


「そう、じゃあそっち向かおうか」


「…ええ」



二人はそんな会話をしながら、生徒会室を後にした。

残された私の体には、さっきよりも大きい震えの波が押し寄せて。



「っ…っ、圭吾っ…」



冷たい空間。

もう、何もかもわからない。



明日から私は、どんなふうに圭吾を見ればいいんだろう。

どんなふうに、省吾と関わればいいんだろう。

頼れる場所も
見つけられなくて…







「あ、陽奈。もう!先に省吾先輩来てくれちゃってたよー!一緒に来るかと思ってたのにぃ」


さっきまでいた
春乃のクラスのカフェ。

後片付けをしようとエプロンを外す春乃に、私は身を預けるように倒れ込んだ。



「え、ちょっと陽奈?」



耳鳴り?

吐き気もする…



「陽奈っ?大丈夫??」



しばらく何も、考えたくない…