恋するキオク



首元にキスをされたって
制服のボタンを外されたって

私はもう、何も言えなくなってた。



どうすることが、誰も苦しまずに済む方法なのかがわからなくて。

私が省吾につぐなえるものが、なんであるかもわからなくて。



「省吾…、明日…一緒に行けない」


「そう。いいよ…どうせイベントが終われば、ずっと部活で一緒にいられるし」


「うん…そ、うなんだけどっ…」



胸のあたりにかかる吐息で、呼吸が一気に苦しくなる。

早くなる鼓動も、抑えられない。



「どうした陽奈。怖い?……震えてる」



三つほど外れたボタンの隙間から差し込まれた省吾の手の平が、ゆっくりと肩を撫でる温度で涙がこぼれた。



怖い…そうなのかな。

でも、止めることもできない。

省吾のことを考えたら…
省吾への申し訳なさを思ったら…



「…っう、」



慌てて両手で口を押さえる。

思わず、圭吾の名前を呼んでしまいそうだった。



「それは怖いよね。こんなところじゃさ。誰に見られるかもわからないし」



省吾の沈んだ声が耳もとで響けば、この切なさの理由が何なのかもわからなくなった。

やっぱり、私には何もできない。

どうしたらいいの?

どうすれば私は…



ふと止まった省吾の手が、頬をつたった涙を拭う。



「もうどんな手を使ってもいいかなとか、思ってたんだけど。泣かれると困っちゃうよね。……無理やりは好きじゃない」


「……省ごっ」



急に立ち上がって窓の方へ歩いて行く省吾の背中を見ながら、私はそれ以上に泣いてしまいそうな自分を堪えた。

辛いのは、私じゃない。



「明後日からは部活が始まるし。また、一緒に帰ろ」


「……」



何も返さない私に、省吾はまた笑って振り返る。



「オレからは離れられないよ。陽奈はオレに頼らないとここにいれない。…きっと、そうなるから」



賑やかな外とは正反対の生徒会室。

その空気を切るように、静かにその扉が開いた。



ガラッ

「会長…、何してるんですか」