「…君、すごい女子から人気だね」
私がしみじみと言うと
「うーん…そうかなぁ?」
ぽやーんと言った。
「なんかね、入学式終わって、廊下歩いてたら声、かけられたの。
授業出るのもめんどくさいし、いいかなぁーって、思ってたんだけど。
みんなは真面目に授業に出るみたいだね」
「授業、出ないの?」
「それ、君が言っちゃうの?」
くすくす笑いながら言われてしまったから
私も、思わず笑ってしまった。
「そうだね。私も人のこと、言えないや」
「僕はね、あんまり勉強が得意じゃないから。
授業とか出る気、起きなくて…」
「そう…なんだ…」
「君は勉強が苦手なようには見えないけど?」
なんで君が授業をサボってここにいるの?
という目を向けてきたけど
私は何も言い返せない。
入学早々、クラスメイトと険悪な雰囲気になって
逃げるようにここに来ました。
なんて、とても言えなくて。
私が口を開くのを
彼はしばらく
「…」
黙って待っていたけど
「…まぁ、いいや。
言いたくないなら無理して言わなくても」
あっけらかんと言って
「まあ、何か悩みとかあるならさ
僕で良ければ聞くけどね?」
と言った。
ふわふわとした喋り方や
天使みたいで、女の子みたいな笑顔や
「僕」っていう一人称は
全部が全部
かわいらしくて
私にはないもの。
羨ましいな。
「僕、椎名覚って言うんだ。
よろしくね」
にこにこ笑顔で
手を差し伸べてくる。
私なんかがこんな人に触れたら
真っ黒にしてしまいそうな気さえして
「よ…よろしくね」
「うんっ!」
私は恐る恐る
その手を取った。

