それは、私欲のためなどではない。

大切なものを守る為に、それ以外を排除したのだ。

歪んだ愛。

愚かしい程の優しさだと、ルシファーは評する。


「いつだって、“誰かの為”だ。」
嘲笑して言った。


『神よ。願いを聞いてはくれないか。』
いつだったか、彼は言っていた。
『——を、どうか、来世では幸せにして欲しい。』
その名は抜け落ちて思い出せない。
だが、それは愛おしいものの名前だろう。

「サタン。」
そう呟いて、グリフォンを出すと煙草に火をつける。
煙はたちまち姿を変える。
「その煙には殺傷能力が無いことは既に把握済みだ。」
「煙は煙……違いない。」
ルシファーはニヤリと笑う。
ヴォルフラムがグリフォンを掻き消すと、煙がまとわり付く。
「!!」
(……視界が)
視界を妨げる煙を振り払うと背後からグリフォンが襲う。
「フラン!」
クラウジアの叫びと共にヴォルフラムは仰け反り、攻撃を躱した。
「煙は侮るものではないぞ?」
ルシファーはグリフォンの背から飛躍し、ヴォルフラムと間合いを詰める。
そして、長い髪を掴み、嗤う。
「いくら能力があれど、力で女が男に勝てるはずない。」
「ちっ……」
(そういえば、今は女だったか。)
ヴォルフラムは自身の姿を再度意識した。
(やはり、戦いにくい。)
ルシファーの鳩尾に蹴りをいれると、爪で攻撃する。
「優劣に性別など何ら関係がない。」
「女を傷付けるのは気が引けるがな。仕方ない。」
「微塵も思っていない癖によく言う。」
「口だけは威勢が良いようだな。」
そう言い合いながら攻防する。
ルシファーが僅かばかり優勢と見えた。
(思うように戦えない。)
ヴォルフラムは歯がゆい思いをする。

——再び、視界が暗転した。
薄氷と骸
その中に眠っていた。
起き上がると、ひらりと誰かが舞い降りた。
狼の耳にユニコーンの角。
サタン。
最初の自分であり、これからの自分だ。
「随分、苦戦しているようだな。」
「嘲笑うために来たか。」
サタンにヴォルフラムは挑戦的に言う。
「……いや。」
首を振り、ヴォルフラムを見る。
「この世の憤怒を司り、永遠に神へ仕える。貴様にその覚悟はあるのだろう。」
「無論だ。」
「では、そうなる為にどうするかを伝えよう。」
サタンはヴォルフラムの首を絞める。
「何の、つもりだ……?」