(そうだ。)
サタンが“誰も愛せない”と言ったことを思い出す。
「喪うくらいなら、愛せなくたってよかったんだ。」
そう呟いてグリフォンを見据える。
覚悟を決めたというよりは諦めを帯びた瞳にクラウジアは不安になって、ヴォルフラムの元へ行く。
「フラン。」
「この鳥は俺が消す。貴様はこの子供と女を頼む。」
「私も戦う。」
「いや、いい。」
そう言うと進み出た。
(——サタン。)
心の中で名前を呼ぶ。
——足元が溶け、骸と薄氷に覆われる。
これは、幻想の世界。
目の前には最初の自分、“サタン”
幾度となく繰り返し見てきた光景だ。
「そうか。」
サタンはヴォルフラムを見る。
「貴様は戻ることを選んだのだな。愛せなくとも。」
「あぁ。」
そう答える瞳は何処も見ていないようでもあった。
「もう、なくしたくない。ひとりは、いやだ。」
泣き出しそうで苦しみを押し殺した声で言う。
足元の骸がヴォルフラムの足を掴む。
這い寄り、首を絞め、腹を喰む。
自身が喰われる光景と共に、現へ戻った。
グリフォンが炎を帯びて向かってくる。
「無駄だ。」
手を翳すと、グリフォンが消えた。
「!!」
(馬鹿な。この術を解けるのは罪人のみ。)
ルシファーが驚く。
「まさか……」
ルシエルと目配せする。
「裏切り者のサタン。」
「ご名答。」
ヴォルフラムは馬鹿にしたように言う。
表情は氷のように冷たい。
「殺すのだろう?来い。」
挑発する口調で言うと大きく飛躍する。
「ふん、裏切り者の分際でよもや誰かを守るとはな。」
ルシファーは攻撃を躱した。
「……いいや。昔から、そういう奴だ。」
そう言って懐かしむようにヴォルフラムを見た。
脳裏には“地獄界”の光景が浮かぶ。
“裁きの間”と呼ばれる空間で神により裁かれた者達が居る場所。
蠢き、血に飢えたならず者ばかりだ。
その奥の牢。
それに白き鎖で繋がれた罪人。
狼の耳にユニコーンの角を持つ男。
彼が犯した罪はルシファーにとって、何の興味もなかった。
当時、天使として神に仕えていたルシファーは裁きの間でサタンを見た。
『汝、大罪を犯した者よ。』
罪を言い渡されたサタンの表情は笑っていた。
心底、嬉しそうに。
その笑みの理由はルシファーにはわからない。
数百年の年月……然れど、天使には少しの時が経ち、彼が大罪を犯した理由を知った。
サタンが“誰も愛せない”と言ったことを思い出す。
「喪うくらいなら、愛せなくたってよかったんだ。」
そう呟いてグリフォンを見据える。
覚悟を決めたというよりは諦めを帯びた瞳にクラウジアは不安になって、ヴォルフラムの元へ行く。
「フラン。」
「この鳥は俺が消す。貴様はこの子供と女を頼む。」
「私も戦う。」
「いや、いい。」
そう言うと進み出た。
(——サタン。)
心の中で名前を呼ぶ。
——足元が溶け、骸と薄氷に覆われる。
これは、幻想の世界。
目の前には最初の自分、“サタン”
幾度となく繰り返し見てきた光景だ。
「そうか。」
サタンはヴォルフラムを見る。
「貴様は戻ることを選んだのだな。愛せなくとも。」
「あぁ。」
そう答える瞳は何処も見ていないようでもあった。
「もう、なくしたくない。ひとりは、いやだ。」
泣き出しそうで苦しみを押し殺した声で言う。
足元の骸がヴォルフラムの足を掴む。
這い寄り、首を絞め、腹を喰む。
自身が喰われる光景と共に、現へ戻った。
グリフォンが炎を帯びて向かってくる。
「無駄だ。」
手を翳すと、グリフォンが消えた。
「!!」
(馬鹿な。この術を解けるのは罪人のみ。)
ルシファーが驚く。
「まさか……」
ルシエルと目配せする。
「裏切り者のサタン。」
「ご名答。」
ヴォルフラムは馬鹿にしたように言う。
表情は氷のように冷たい。
「殺すのだろう?来い。」
挑発する口調で言うと大きく飛躍する。
「ふん、裏切り者の分際でよもや誰かを守るとはな。」
ルシファーは攻撃を躱した。
「……いいや。昔から、そういう奴だ。」
そう言って懐かしむようにヴォルフラムを見た。
脳裏には“地獄界”の光景が浮かぶ。
“裁きの間”と呼ばれる空間で神により裁かれた者達が居る場所。
蠢き、血に飢えたならず者ばかりだ。
その奥の牢。
それに白き鎖で繋がれた罪人。
狼の耳にユニコーンの角を持つ男。
彼が犯した罪はルシファーにとって、何の興味もなかった。
当時、天使として神に仕えていたルシファーは裁きの間でサタンを見た。
『汝、大罪を犯した者よ。』
罪を言い渡されたサタンの表情は笑っていた。
心底、嬉しそうに。
その笑みの理由はルシファーにはわからない。
数百年の年月……然れど、天使には少しの時が経ち、彼が大罪を犯した理由を知った。


