「この世界を構成するために」
「生まれてきた。」
ルシエルとルシファーは言う。

刹那、

グリフォンがシエリアを横切り、メイフィスの方に飛躍した。
「エリミアさん!メイフィスちゃん!」
「おっと。邪魔はさせないよ?」
ルシエルは楽しそうに行く手を阻んだ。
メイフィスを抱きしめ、エリミアはグリフォンから襲われる覚悟を決めた表情でいる。
“グォオオオオ”
唸り声と共に穿つ。
「きゃっ」
小さく悲鳴を上げて、来るべき衝撃が来ない不思議に視線を上げた。
目の前にはヴォルフラムが居る。
炎を纏うグリフォンの攻撃を受け止め、弾き返した。
受け止めた腕が焼ける。
「この程度か。」
そう言って二人を見た。
ジリジリと焼け付く痛みは意に介していないようだ。
「おや、こうも容易く受け止めるとはな。」
ルシファーは楽しそうだ。
「本気で来なければ、俺は殺せない。」
そうしてヴォルフラムはルシファーを見据えた。

——足元が溶け、骸と薄氷に覆われる。
これは、幻想の世界。
目の前には最初の自分、“サタン”
『貴様は戻りたいのか?』
問いが過る。
「貴様は戻りたいのか?」
やはり、同じ問いだ。
「あぁ。」
「ならば、構わない。だが、そうなれば永久に死なない。そして、誰も愛せない。」
「何故、そう言い切る。」
「世界の全てを識ることになるからだ。」
サタンは諦め切ったような色の目で見つめる。
「広い世界のひとつを慈しむこころが、俺にはない。」
「貴様は俺ではない。」
「だが、戻ることはそういうことだ。第一、俺が住む所は地獄界。此方には頻繁に行けない。」
そう言われてヴォルフラムはサタンを見た。
「ならば、連れてくればいい。そうすれば死もなく、ずっと、一緒だ。」
ぽつりと呟いた。
「……どうだかな。」
サタンはそう言うと悲しげに笑んだ。
そして、空間は元に戻る。

以前に見た光景だ。
記憶が過ぎったのか、夢か現かも解らない。
どこか他人事な気もした。
(もう一度力を使えば俺は戻る事になる。あるいはどちらでもない。)
自身が脆くなっていることを自覚しているヴォルフラムは思う。
(それでも、いい。)
『貴様は戻りたいのか?』
サタンの言葉が過る。
「……あぁ。」
(それでいいと、あの時決めた。)
転生など、輪廻など、大事なものを喪うことをこれ以上続けるのならば
——愛さなければいい。