「今は逃げたほうが良さそう。……まぁ、いずれ手に入れるけど。」
そう言い残して、グリフォンに乗り去った。
「……一難去ったみたい。」
エリミアは瞬きしながら去った方を見た。
「お前らにはあとで説教だ。」
クラリスはメイフィスとシエリアを睨む。
「うー……」
メイフィスとシエリアは目をそらした。
「フラン……では、ないか。」
クラウジアはサタンを見た。
「選んだのは奴だ。」
「そうか。」
動じないように見える言動にサタンは意外そうにしている。
「…………ひとり、か。」
やがて、クラウジアはそう自嘲してサタンを見た。
「最期の別れくらい、言わせてくれたっていいものを。」
「手向けの言葉など不釣り合いだ。」
「ふん。」
クラウジアは鼻で笑って踵を返した。
「地獄へでも何処へでも行ってしまえ。」
そう言い捨てて去る。
「どこいくの?」
「関係ないだろ!」
シエリアの言葉を一喝して突き放した。
クラウジアの姿が見えなくなると、サタンは“そうか”と言う。
そして、姿を消した。
「……どういう、こと?」
エリミアは困惑する。
「サタン。……確か、この世の憤怒を司る罪人であり、地獄に居るもの。って本に書いてあった。」
「その器がヴォルフラム……そして、今、器と罪人が同一化して“ヴォルフラム”という存在が消えた。ということか。」
シエリアにクラリスは言う。
「だいじな、ひと?」
メイフィスは状況がわかっていない様子だ。
「そう。とても、大切な……」
シエリアはそこまで言うと涙を零した。
「どうして……それじゃ、クララは……」
「シエン。」
クラリスはシエリアを抱きしめた。


——地獄界
此処には罪深いものが蠢いている。
死臭と腐敗と悪意で満ちた世界。
「ヴォルフラム」
そう呼ぶと、赤黒い沼のような所から骸が這いずり出てきた。
サタンはその骸を引き摺り出し、触れる。
「貴様はとうの昔に死んだ者だ。……本来ならば、別の人生を歩んでいたはずの魂。それが、タナトスと俺により輪廻させられていた。」
懺悔するように話しかける。
「その人生であるならば、普通に生きて、結ばれ、家族や子供と共に生きていけたのかもしれないな。」
骸は僅かに指先を動かすばかりで何も言わない。
「——許してくれ。憤怒の器よ。俺の罪を負わせることとなった。」
サタンは慈しむように骸を撫でた。