夏の夜はいい匂いがする。
音を消した携帯が視界の端で光って、消えた。
今日1日、再三かかってくる渉からの着信を無視した。
もちろん亜希からの連絡はない。
僕のついた嘘で、亜希を傷付けた。
金山さんからもらった手紙は、
渉を呼び出す為のものと偽った。
その場しのぎにも程がある。
「最低だ。」
つぶやき、蚊取り線香に火をつけた。
ふわっと懐かしい匂いがする。
『ジローくん!
花火しようよ!』
昔の思い出が蘇る。
一緒に花火をした時。
初めて見た亜希の浴衣姿。
可愛くて可愛くて独り占めしたくなった。
庭でスイカを食べながら花火をした。
けど僕は、亜希しか見えなかった。


