彼女は時々楽しそうに私の写生を邪魔した。

「手帳 鉛筆 とりいだし ここの景色も うつしみん 向こうの海辺の 打つ波の 飛沫は手本の中にあり」

そういってスケッチブックを取り上げると楽しそうに歌いながら眺めた。

(後にわかったことだがこの歌のこの番は彼女の造歌だった)

私の対人恐怖症もほとんど治りかけていた。

しかし退院させようとする母にまだ怖いなどと嘘までつくようになった。

嘘をつくことに罪悪感はあったが恐怖はなかった。

私は違いなく改善へと向かっている証だ。

そんな成長をさせるくらい、彼女との時間は楽しかった。