「これからは何があっても、俺をお父さんと呼べ。それ以外の呼び方をしたら追い出すからな。」
お父さんという慣れない響きは、なぜか言うだけでとても恥ずかしい気分になる。
だけれどお父さんが居たことがない私にとって、それは何だかとても幸せに感じる響きだった。
「・・・・あの、おとう、さん?」
「なんだ?」
「おとうさん・・・。」
「・・・・だからなんだってんだよ?」
「ありがとうございます。」
私はそう言って、お父さんの栗色の瞳を見つめて笑顔を作った。
お父さんと常に呼べるように、普段から意識しておこう。
そんな私の心を知ってか知らずか、お父さんは何だかほんの少しだけ恥ずかしそうな顔をして視線をそらした。
「話は以上だ、家の中を案内してやる。着いて来い。」
お父さんはそう言うと、私の旅行用バッグを手に私を従えてその部屋を出た。
「ここはリビングだ。」
部屋を出ると、今居た部屋を顎で指しながらそう言った。
「奥にキッチンとテーブルがあったろ?食事はここで。ちなみに家政婦が5人ほど日替わりで来るから、家事はする必要は無い。むしろ余計な事はするな。」
私はその言葉に黙って頷いた。
今までの癖で、ついつい余計な事をしてしまいそうな予感がしたけれど、それは黙っておく事にした。

