電話を切った私は、何だかすごく満足だった。
シオンの香水が分かったし、何よりこんな細やかな会話でも声が聴けるだけ安心出来た。
今まではあの冷たく突き放すような声が好きじゃなかったのに、人間とは本当に大切な事を見失いがちだ。
だけれど私も離されたから分かった事で、きっと今でも一緒に居たら、細やかな会話がどれほど幸せな事なのかなんて気付かなかっただろう。
私は携帯をきちんと充電器に差し込むと、明日もほんの数分でも構わないから連絡したいと心から思った。
その瞬間、コンコンと何故かまた部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
折角ご機嫌だった私はすっかりげんなりして、渋々扉に向かって、その扉を勢い良く開けた。
目の前に立っていたのはお父さんだった。
「……お前、大事なもん忘れてくんじゃねぇよ。金を何だと思ってやがる。」
お父さんは目を細めて私を見下ろしながら、そう言って私の手に札束を押し付けた。
「ご、ごめんなさい!」
シオンに電話をしなくちゃいけないと思って、すっかり忘れていた。
「ったく、次忘れてったら追い出すからな。」
お父さんはそう言って私の鼻先で扉をバタンと閉めた。
扉の閉まる音にびっくりして、私は思わず両目をぎゅっと閉じた。

