叶う。 Chapter3





それは家政婦さんに限らず、お父さんやその付き人達も、何故かあまり足音を立てないで歩いている気がする。

意識していなかったから気付かなかったのかもしれないけれど、この家では静かに歩かなきゃいけないルールでもあるんだろうか、と一瞬だけ疑問に思った。

私がそんなくだらない事を考えていると、いつの間にか掃除が終わったのかバスルームの扉が開いた。

ちらりと見ると、家政婦さんは今度はトイレに入って行った。


何だか気分が全く落ち着かなくて、私は出窓の縁でピアノを弾くようにトントンと指を動かし始めた。


そういえば、この家はいつでもピアノを弾いていいのだろうかとふと思う。

前は防音室があったから、気にせずいつでもピアノを弾いていたけれど、あの部屋もこの部屋もきっと防音にはなっていないはずだ。

それに足音すら立てないここの住人達は、きっと普段から無駄な音を一切立てないで生活しているのかもしれない。

だったら私がピアノを弾く事が、うるさく感じるかもしれない。

楽器には好き嫌いがある。

特にピアノは音が大きいので、嫌な人は嫌だろうと思う。


後でお父さんに聞いてみようと思った瞬間、家政婦さんがトイレの掃除を終えたようで、扉の前で一礼するとさっさと部屋を出て行った。

その足音を聞き分けてみようと試してみたけれど、やっぱり足音は聞こえてこなかった。