私は震える指先で、通話をスライドさせると携帯を耳に当てた。
「も、もしもし?」
″今、何時だと思ってるんだ?″
いつもと同じ冷めた声音が、携帯から聴こえてきた瞬間、私は感動のあまり急に言葉が出なくなった。
まさか掛かって来るとは思わなかったので、何を話したら良いのか混乱してしまったけれど、とにかく会話を繋げたかった。
「今?21時半だよ?」
私がそう言うと、シオンは電話口でも分かるくらい溜め息を吐いた。
″それは日本の時間だろうが。″
呆れたようにそう言うシオンの声が、何だかすごく懐かしく感じる。
たった一晩、離れてしまっただけなのに何故かその声が愛しく感じてしまうのは、無い物ねだりみたいなものなのかもしれない。
「あ、そう、だよね……ごめんなさい。邪魔な時間だった?」
″いや、邪魔じゃないが、学校だ。″
「え?もう学校に行ってるの?だって、まだそっちに着いたばかりじゃないの?」
″親父の手際が良くてな。着いたらもう手続き済みだった。″
「そっか……あの、ママは大丈夫?」
″ああ、心配するな。″
「あ、あのね、シオン……シオンがつけてた香水って……」
必死に電話を切らないように言葉を繋げる。
少しでも、長く話して居たい。
だけれどそれは残念ながら出来なかった。

