ぼんやりとお父さんの葉巻の煙を眺める私に、お父さんはこう言った。
「・・・とりあえず、今日は寝たらどうだ?明日出掛けるんだろ?お前が自分で行くのが面倒なら、家政婦に車を出してもらえ。今、お前の付き人を探している。見つかり次第つけてやるから、それまでは何かあって俺がいなければ家政婦に。」
お父さんはそう言うと、ぼんやりとしている私に早く部屋に行くように促した。
付き人という慣れない響きと、誰かに常に一緒に居られる事は物凄く嫌だと思ったけれど、なぜかそれを伝える気力も無かった私は、ソファをゆっくり立ち上がった。
「おやすみなさい。」
私はお父さんに小さくそう言って、リビングを出ようと扉に向かった。
「ゆっくりお休み。」
後ろから、優しい声音でお父さんがそう言った。
何だか優しい返事が返って来ることが、とても幸せだと思った。
本来なら今頃どこかのアパートで一人ぼっちだったはずの私に、挨拶をしてくれただけなのに、なぜか泣きたい気分になった。
私はもう、精神的にいっぱいいっぱいなんだろうと、自分自身でそう感じたけれど何となく、お父さんとは上手くやっていけそうな気がした。
善人か悪人かと聞かれたら、間違いなく悪人なんだろうけれど、人間の基本は挨拶からだ。
それがきちんと出来るお父さんに、何故かとても安心感を抱いた。

