叶う。 Chapter3





「あの、1つは携帯なんですが、今持っているのが多分ママ名義になっているんです。」


「それは、お前が前から使ってるやつか?」


「はい、友達とかに連絡したい時もあるので、この前頂いた携帯じゃなく、使えるならママ名義の携帯で構わないのですが……」


「分かった。それは名義を変えとくからそのまま使って良い。勿論新しいのが良ければ用意するが。それ以外は?」


「携帯はこのまま使います。あと、部屋に小さい冷蔵庫が欲しいです。」


「分かった。」


「後、もう1つだけ……」


「一々遠慮するな。面倒くせぇやつだな。」


お父さんはそう言って微かに笑った。



「あの、部屋にあるピアノがとても気に入ったんですが、あれ調律されてないみたいで、音が若干おかしいところがあって、出来れば直して頂けませんか?」


私がそう言うとお父さんは驚いたように目を丸くした。

奥二重の目が何だか一瞬、狐みたいに見えて私はお父さんが何かに似ていると思った理由が分かった。


「確かにあれは古いピアノだか、音が違うなんて分かるのか?」


「分かります。特に黒鍵の音がだいぶ……」


「へぇ、たいしたもんだ。俺は音楽に詳しくないんでな。あのピアノは持ち主が居なくなってから8年くらい誰も触ってない。」


お父さんはほんの一瞬だけ、なぜか寂しそうな表情を浮かべた気がしたけれど、薄暗いこの部屋ではそれははっきり判断出来なかった。