私は目の前に座る、今日会ったばかりの男に突然こう言われた。



「良いか?お前は別居していた両親が離婚する事になった。そしてお前は父親に、兄は母親に引き取られて海外に行く事になったんだ。」



部屋の中はアンティーク調の家具で全て揃えられ、まるで、外国のお屋敷みたいな作りになっていた。

偽物だけれど巧妙に作られた暖炉は明るい炎の色をチラチラと表現していて、そこから暖かい温風が流れ込んでは部屋を暖めている。

その回りを囲うように置かれた、黒い革張りのソファに向かい合う形で座りながら、男は葉巻をくわえて私をしっかりと見つめていた。



「だから、俺は今日からお前の父親だ。」



私は何故こんな事になったのか皆目検討もつかなくて、ただ黙って目の前の男の話を聞いていた。


正直なところ、全く意味が分からない。

夢でも見ているんじゃないかと思って、膝をつねってみたけれど、涙が出るほど痛かった。



「とりあえず、学校や友達、それにピアノの先生、お前を知る全ての人間にそう説明しろ。後、俺の職業を聞かれたら貿易会社を経営していると言え。」



男は面倒くさそうにそう言って、口にくわえた葉巻を吸い込んだ。


途端に辺りに白い煙が立ち上る。