「ねぇ先生…」
体温計を手にとった野々宮がまた甘えた声を出す。
顔を上げると野々宮が体温計を制服のシャツの上から入れようと悪戦苦闘している。
「入らない……」
「馬鹿か、シャツのボタンとんないと…
」
あ、てか
制服のまんまか。
こいつも頭働いてないけど
俺もじゅうぶん抜けてるわ
「パジャマどこ?」
制服のシャツのボタン外して体温計入れてる姿見て我慢してられる自信ないし。
さっさと着替えさせよ。
ぼーっとした顔でまた体温計が入っていた棚とは別の棚を指さす。
そこを開けるとピンクのパジャマが入っていた。
それを取ると野々宮に渡した。
「俺後ろ向いてるからそのあいだに着替えられる?」
「は、はい…」
遠慮ガチに返事をした野々宮は「いいって言うまで振り向かないでくださいね!」と念を押す。
「ふり?」
「違います!!」
急にムキになる野々宮がおかしくて思わず笑ってしまう。
「はいはい、見ませんよ」
くるっと後ろを向くとその場に腰をおろしあぐらに頬ずえをついた。
「まだ?」
「まーだーです!!!」
「はーい」
野々宮をからかうように声をかけて面白がる俺。
焦って着替えてるであろうガサゴソという音も手伝って、俺はさぞ楽しい気分になった。
が、ふと思い出された台詞。
(「じゃあなことは。なんかあったらまた俺を頼っていいからな」)
神山のあの憎らしい顔と声が脳を一瞬でかけめぐった。
最悪。
頬ずえをついていた右手はいつの間にか垂れた俺の頭を支える役割を果たしている。
まぁ、今日の野々宮を見る限り
だいぶ甘えたになってるから頼ってもおかしくないとは思う。
現に俺もこんなに甘えられたのは初めてだ。
……………いや、
でもなんでよりによって神山なんだ
やつは、顔はそこそこいいが、女関係でいい噂を聞かない
野々宮が自分から頼ったとは思えないからむこうから行動したんだろうけど…
まぁ随分面倒なやつに好かれたな。
